2018年3月16日金曜日

守屋純子オーケストラ@東京TUC

2018年3月14日、守屋純子オーケストラ@東京TUCを聴いてきました。
メンバーは、
守屋純子(pf,arr)
trp:佐久間 勲、木幡光邦、奥村 晶、岡崎好朗
trb:佐野 聡、佐藤春樹、東條あづさ、山口隼士
sax:近藤和彦、緑川英徳、岡崎正典、吉本章紘、佐々木はるか
b:納 浩一 ds:広瀬潤次



コンサートの第1部は、ジャズレコード録音100周年を記念して、過去のジャズレジェンズをトリビュートした作品達です。
1.Fascinating Rhythm(George Gershwin ) 
ジョージ・ガーシュインの有名な明るい作品です。
木幡光邦(tp)と佐藤春樹(tb)ソロが光ります。
アンサンブルは明るく華やかにハーモニーを繰り出します。

2.DUKE’S MOOD (JUNKO MORIYA)
守屋純子はDUKE ELLINGTONNの後期の組曲ものの、あやしい感じが好きということで、そんなムードの曲を書いたそうです。
スローなでだしからピアノ、SAX陣が入ります。佐々木はるかのバスクラリネットがとてもいいアクセントをつけていきます。広瀬潤次のドラムがいかにもエリントンバンドというリズムを刻みます。佐野 聡(tb)の少しビターな音色をたたえたブルージーなソロ、近藤和彦のソプラノサックスが憂を含んだトーンで始まり次第に熱く展開し最後は圧巻のソロ!!
アンサンブルでは佐々木はるかのバリトンのアクセントが効いています。吉本章紘(ts)の太い感じの音色で始まったソロもパワーを秘めたほとばしる熱情という感じが聴かせます。
3.家康公組曲から三河武士魂 Samurai Spirit of Mikawa Warrior
トロンボーンの提示部からSAX陣につながり印象的なテーマの提示、岡崎正典のクラリネットと近藤和彦のフルートがアクセントをつける。守屋純子のリリシズムあふれるピアノで美しいメロディーが醸し出されます。奥村晶(tp)の印象的に美しいソロ。SAX陣が分散して美しいテーマを演奏します。
守屋純子によれば亡くなった三河武士が、それぞれ登場して語るというシチュエーションだそうですが、それは能の世界そのものです。
能の大部分は怨霊が現れ、過去の苦悩を旅の僧侶などに語り、僧侶によって供養、成仏するという話で、戦国時代の明日をも知れない武士に愛されたわけです。
守屋純子の作品は、美事にその精神を継承しています。



4.CHARLIE (JUNKO MORIYA) 新曲
CHARLIE PARKERのWithStringsなどの美しいサウンドに主眼をおいたバラードライクな美しい曲
5人のサックスセクションのみが起立してリズムセクションとともに美しいメロディーで曲は開始し、
最前列の私との距離は1メートル足らずの佐々木はるか(bs)の美しいサウンドのソロは印象的でした。彼女を聴くのは初めてではありませんがバリトンサックスでもバスクラリネットでもこれほどのサウンドをもっていたのかという驚きです。在米中で現在日本に一時帰国しているそうです。このライブの為に帰国を早めたそうです。本日最大の収穫かな。
続いてSAX陣がそれぞれ個性溢れるソロを繋いでいきます。
私との距離60センチの岡崎正典(ts)のクリアーなトーンが印象的な美しいソロ、近藤和彦(as)の目もくらむようなソロ、緑川英徳(as)のドルフィーから見たバードを描いているかのような表現力溢れるソロ、吉本章紘(ts)のしっとり聴かせる美しいソロ!!
5.TRANE’S MODE (JUNKO MORIYA) 新曲
JOHN COLTRANEの至上の愛を意識したが、書いている内にジャイアントステップスやブルートレーンが入ってきたという作品でインパルス初期から中期の激情的でありながら美しいサウンドがイメージされる傑作曲
今日も納浩一のベースソロで曲は開始します。その強く硬質なベースは、伝説のカルテットメンバーで最後までトレーンの音楽に尽くしたジミー・ギャリソンを想起させるサウンドで、ベースをギター的に弾いたりと納浩一の超絶技巧のソロが繰り広げられ、続いてかっこいいピアノとドラムが鋭くからみ、アンサンブルがあの最強カルテットをイメージさせるサウンドを広げ、私の至近距離の岡崎正典(ts)のトレーンのインパルス初期の時代の美しく圧倒的なパワーを思わせる圧巻のソロ!そして岡崎好朗(tp)の力強く強力なラインがきらきら輝くソロ!!何小節かのソロを取る広瀬潤次(ds)の強力な演奏には、私のメモには、新宿ピットインでのエルビンを思いだすと書いてありました!!
第2部
1.オリジナルだけでなく人のいい曲も取り上げるということで、守屋純子が選んだのは、何と、ビル・エバンスの愛奏曲のマイ・ロマンス!!
もう一人のジャズの巨人と言えばという問いかけに、答えは、ビル・エバンス
ビル・エバンスをトリビュートする作品です。そして、さらっと納浩一(b)に今度は、スコット・ラファロ風にねとお願いします。
そんな無茶な注文、納浩一(b)以外では無理でしょうと思いました。前の曲では、ジミー・ギャリソンも真っ青というソロをみせた超絶技巧のベーシストならではです。
守屋純子はエバンスの音楽の特徴は、スタンダードでもとんでもないキーチェンジにあり、それが小節間、1小節内でもあることと考えているそうで、そんなイメージでアレンジを施した最新作です。
普通、エバンスをオーケストラ化するというのは、無謀と考えるのでは無いでしょうか。
私は、エバンスはハーモニーの変化を音楽の基礎に据えていると思っています。時にソロの途中で、考え込んだり、沈黙しているときは、響いている音を聞いて、どんなハーモニー変化がいいかを探っている時だと思っています。
マイ・ロマンスは、守屋純子のリリシズムあふれるピアノソロから、納浩一(b)のタイムをキープしつつ、ピアノと力強く対話するベースが入り、広瀬潤次(ds)は繊細で空間あふれるドラミングで応えます。アンアサンブルは美しいテーマを整然と奏で、そこから一挙に複雑なコードチェンジの世界を一糸乱れずに響かせます。
佐々木はるか(bs)の美しい音色のソロ、吉本章紘(ts)の爆発的なパワーを秘めた美しいラインのテナーソロも圧巻でした!!
この曲のアレンジも傑作!!
第2部は、日本画の巨匠・長谷川等伯にインスパイアされた、今回は3曲からなる長谷川等伯組曲です。
2.ニルバーナ
長谷川等伯 筆 「仏涅槃図」 一幅 京都本法寺 蔵
ニルバーナと名付けたそうです。
釈迦の入滅と、その死を嘆く弟子や動物たちが集まっているを圧倒的筆力で表しています。
この絵には釈迦の母などの人々の他に羅漢、弟子、獅子、象、虎、駱駝、想像上の動物までが描かれています。
守屋純子は、この悲しみにくれる人間・動物などが総て同じ大きさで描かれていることに注目して、悲しみの前では何者も平等だという画家の考えの表れだとします。
曲はミドルテンポで始まりますが、涅槃という絵画から想像するレクイエムのような曲調ではありません。
お釈迦様の涅槃については、このサイトが非常に分かりやすく解説されています。
http://mujintou.net/dharma/bukkyo/ksinagar.htm
以下、引用させて頂きます。
『浄土仏教の思想』第二巻、講談社、1992年では、釈迦も弟子達にこのような言葉をかけています。涅槃は、それまでお釈迦さまのそばにいつもいたアーナンダは、ついにわが師がお亡くなりになると思って「住居に入って、戸の横木によりかかって、泣いていた」といいます。これを聞いたお釈迦さまはアーナンダを呼び、こう言います。
やめよ、アーナンダよ。悲しむな。嘆くな。アーナンダよ。わたしは、あらかじめこのように説いたではないか、--すべての愛するもの・好むものからも別れ、離れ、異なるに至るということを。およそ生じ、存在し、つくられ、破壊さるべきものであるのに、それが破壊しないように、ということが、どうしてありえようか。……アーナンダよ。長い間、お前は、……向上し来れる人(=ゴータマ)に仕えてくれた。アーナンダよ、お前は善いことをしてくれた。つとめはげんで修行せよ。速やかに汚れのないものとなるだろう。(同上p.137)
お釈迦さまはアーナンダをはじめとする修行者たちに告げられます。「わたしが説いた教えとわたしの制した戒律とが、わたしの死後にお前たちの師となるのである」と。さらにしばらく法を説かれたあと、お釈迦さまはこう言われます。
さあ、修行僧たちよ、お前たちに告げよう、『もろもろの事象は過ぎ去るものである。おこたることなく修行を完成しなさい』と。(同上p.158)

と涅槃図は悲しみを描くばかりで無く、残されたものへの教えの希望を描いていると私は思いますが、この曲調はまさにそれに当てはまるようです。
岡崎正典(ts)の美しい音色のテーマ提示からアンサンブルも美しいハーモニーをかなで、岡崎好朗(tp)のリリカルでメロディアスな圧倒的美しさのソロ!!
3.TIGER &  DRAGON 竜虎図  (JUNKO MORIYA) 新曲
竜虎図というモチーフからはダイナミックな作品化と思ったらこれがユーモラスな曲調の美しい曲で、何と5拍子で始まり、岡崎正典(ts)のクリアトーンの美しいラインのソロにため息、佐野 聡(tb)のゆったりしたドライブの美しいソロへ展開します。
SAX陣とトランペット陣とトロンボーン陣が、会話をしているかのような印象的な主題交換で曲は閉じます。
あとで守屋純子に質問したら、SAX陣は虎、トロンボーン陣は龍、トランペット陣は雲を表しているそうです。
岡崎好朗(tp)と緑川英徳(as)の静謐で緊張感溢れるソロが印象的でした。
4.PINE TREE 松林図屏風 (JUNKO MORIYA) 新曲
誰もが知っている日本絵画史上最高作の一つ(私見では、もう一つは雪舟の山水長巻)、苦労をともにしてきた妻、長命であれば等伯を超えたであろう天才絵師の長男・久蔵と家族に先立たれて描いた故郷七尾の松林の風景といわれています。郷愁や哀感、孤独、静謐といった感情が鑑賞するたびにめばえます。
守屋純子の作品は、ホーンセクションのコラールような響きから始まり、じっくりと静かな風景をオーケストラで描ききります。近藤和彦(as)の彼ならではの圧倒的に流麗で洗練されたラインのソロは、ほのかな哀しみの味わいを感じさせます。納浩一(b)の美しいアルコソロは海岸に吹く風でしょうか。

5.MONKEYS IN WITHERED TREE 枯木猿猴図 (JUNKO MORIYA) 
ユーモラスなテーマでアンサンブルは展開しますが、佐々木はるかのバリトンのアクセントが凄く良く効いています。そして、緑川英徳(as)の圧倒的ソロ。私のメモには、ミドリーヌ全開の圧倒的ソロと書いてありますが、飛翔し、うねり、魂を叩きつけるような圧巻のアルトソロ!!続いて奥村晶(tp)のブリリアントなラインが光るソロ!!



アンコール
My Jelly Roll Soul (Charles Mingus作)
もう一人のジャズの巨人と言えば、Charles Mingusでしょうということで、アンコールはミンガスのおなじみのナンバーです。
リズミカルなアンサンブルに乗って、木幡光邦(tp)の絶妙なミュートソロに唸ります。
東條あづさの(tb)のミンガス風にアーシーな音色の素晴らしいソロ!!
そして曲はクライマックスに入るとトランペット陣の顔色が変わります。
岡崎正典(ts)の鋭いソロ!!
次に奥村晶(tp)のブリリアントなソロ!!
次に佐久間 勲(tp)の空間を切り裂くソロ!!
木幡光邦(tp)の圧巻の歌い回し!!トランペット陣が次々にすさまじいソロを受け渡して、曲は圧倒的なエンディング!!
私のメモに(tp)凄い!!とだけ書いてありました。
あっという間の2ステージは、守屋純子の素晴らしい作品とジャズオーケストラサウンドを堪能し尽くした時間となりました。

新作の発売は夏頃の予定だそうです。



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